渉外不動産――外国人向けの不動産登記(売買)

外国人が日本の不動産を購入するとき
外国人による日本の不動産購入について、ネット上での質問に対する回答が、「日本に在住している場合」と、「海外からの投資による場合」とを峻別しないものが目立っていますので、場合分けをしてQ&A形式で説明したいと思います。



Q1.外国人が日本の不動産を取得することに法律上の制限はないのでしょうか?
A1.現在では何ら制限はありません。但し、外為法上の報告義務等が課される場合がありますので注意してください。詳細は後述します。

 ところで、講学上、外国人の私権保護に関して、2つの主義があります。
 一つは相互主義で、その本国が自国民に認めると同じ程度まで認める主義です。
 もう一つは平等主義といって、外国人に対して原則として自国民と同様の私権を享有させる主義で、日本は原則この主義をとっていますが、法令や条約によって外国人の権利の享有を制限しうる余地を認めています(民法第3条第2項)。戦前の大正14年法律第42号として「外国人土地法」を制定し、現在も生きているのですが、実際には、外国人土地法による権利制限はありません。外国人土地法は、外国人が土地について権利を享有することは原則として自由との立場をとりますが、2つの場合につき制限しうることを規定しております。
 
その一つは、ある国が日本人(法人を含みます)に対して土地に関する権利の享有を禁止し、又は条件若しくは制限を付しているときは、その当該国の国民(法人も含みます)に対し「勅令」をもって、同一若しくは類似の処置をとることができるとするものです(法第1条)。ところが、この第1条にもとづく勅令または政令は現在に至るも発せられたことがありません。
 その二は、わが国の国防上必要な地区については「勅令」をもって、外国人が土地に関する権利を取得することを禁止し、または条件若しくは制限を付することができるとしています(法第4条)。この第4条にもとづく勅令としては、外国人土地法施行令(大正15年勅令第334号)をもって施行されたが、同令は昭和20年10月24日勅令第598号で廃止(同日施行)されましたので、現在では、外国人の不動産取得に関しては何ら制限がないものとなります。

 その他に、昭和24年政令第51号の「外国人の財産取得に関する政令」が制定されましたが、昭和55年12月1日廃止されました。また、昭和24年政令第311号で「外国政府の不動産に関する権利の取得に関する政令」が制定されましたが、同令に基づく大蔵大臣(財務大臣)が指定する国から多くの国(176ケ国)が除外されており、同令が実際に適用される場合はほとんどないのが実情です。



Q2.海外に居住している外国人が日本の不動産を購入する際の必要な手続並びに書類等を教えてください。
A2.日本の不動産を海外の外国人が投資用に購入することが増えてきました。当事務所でも既に数多くの外国人による日本不動産購入の手続を処理しました。その方々は日本のリゾートマンションの購入または、娘の留学のための居住用マンションの購入、更には投資用マンションの一棟買い等でした。古くは97年以降の不良債権処理の頃には、不良債権付き抵当権を買い捲りこれらを証券化して海外の機関投資家へ売るファンド等からの依頼によりその登記手続きの処理を行っております。

 そこで、その登記手続きをなす際に、いつも質問を受けるのは登記の添付書面としての住所を証する書面はどのようなものかということです。
 日本では、所有権取得の際の登記手続きの添付書面で住所を証する書面としては、住民票があります。戸籍の附票も住所を証する書面です。日本と同様な制度があるのは、韓国の住民登録証明書です。台湾では戸籍が住所を証する書面でもあります。
 しかしながらそれ以外の国では住民登録制度はありません。諸外国のほとんどは、出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書程度しかありません。それでは、住所を証する書面はどのようにして入手すればよいのでしょうか。その外国人が所属する国の官公署の証明にかかる書面を提出すべきですが、前述のとおりその制度がない国ではその国所属の公証人の認証による宣誓供述書をもって住所を証する書面とするしかないのです。また、宣誓供述書は在日の当該大使館領事部で認証された宣誓供述書でも住所を証する書面となります。ただし、当該大使館領事部で認証しない国も稀にありますので、事前に問い合わせをしていたほうがよいでしょう。ところで、宣誓供述書でどのような内容であれば住所を証する書面となるのかというと、本人の特定並びに本人がその本国の何処に住所を有しているのかが記載されていれば充分です。

 海外の法人である場合の住所証明書ですが、法人登記または登録制度はほとんどの国で整備されていますので、その国の所轄官庁が発行した法人登録証明書をもって住所証明書とすることができます。また、代表者が会社の本店、商号並びに代表者である旨をその法人の本国の所轄官庁の担当者または公証人の面前で宣誓した認証ある宣誓供述書をもって住所を証する書面とすることができます。また、法人の場合は、代表者が法人を代理して不動産売買という法律行為を行うことですので、代理権を証する書面にもなります。
 売買契約を締結する際には、売主・買主はお互いの締結意思確認のために印鑑証明書を添付し、契約書には実印を押印することが日本の慣習です。韓国、台湾を除く諸外国では印鑑証明制度がありません(中国本土は印鑑を使用しますが印鑑証明制度はなく、印鑑を証明してもらうためにはその国の公証員(日本の公証人類似制度)の公証書で認証してもらう方法はあります)。書面の作成方法が不明の方は、当事務所では作成サービスも行っておりますので、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。



Q3.海外の外国人が日本の金融機関でローンの借り入れをすることはできますか?
A3.日本の金融機関ではほとんどが永住者を要件にしていますので難しいと思いますが、外資系銀行または外資系ノンバンクではローンに応じているところもありますので、ネット等で調べて申し込まれてみてはと思います。過去にも、非居住者であるアメリカ人がリゾートマンション購入時に、預金担保と購入物件の抵当権設定による外資系銀行からのローン借り入れをもとにして購入が完了した事例がありました。



Q4.海外の外国人が売買契約締結の際またはローン借り入れの際の本人確認はどのようにするのでしょうか?
A4.売買契約締結並びにローン借り入れの際には、不動産媒介業者または金融機関としては、犯罪収益移転防止法(平成19年3月31日法律第22号)にもとづき本人確認をする義務があります。また、司法書士も不動産売買の際の所有権移転登記手続きは特定取引として本人確認義務があります。
 そこで、海外在住の外国人の場合に本人確認をするにはどのよう方法があるのでしょうか。通常ですと不動産決済の際には当該外国人が日本に来ることになりますので、その際にパスポートの提示を受ければ本人確認が容易にできますが、来日しない場合には代理人を立てることになります。その際には本人から代理人に対する委任状を徴求しておいてください。その代理人が不動産決済に臨まれるときに、不動産媒介業者は代理人より当該外国人のパスポートの写し、当該国公証人等の認証ある委任状の原本と写しを照合し写しをもらっておくとよいでしょう(なお、委任状の原本は登記申請の際にも使用します)。司法書士は同人が所属する司法書士会の会則上の更なる縛りがありますので、パスポート写し、委任状の原本照合、代理人の本人確認のための身分証明書の確認のうえに、本人確認並びに意思確認のために本国にいる当該外国人への電話確認、本人受取限定郵便による手紙を出すことなど、職責に照らした本人確認義務があります。そのために、不動産媒介業者の方は、不動産決済の少なくとも10日前には司法書士に不動産決済の準備期間を通知することによって、決済当日に手続がスムースに運ぶものと思います。



Q5.海外の外国人が不動産を購入した際、外為法(外国為替及び外国貿易法)上の何らかの届出が必要でしょうか?
A5.海外居住の外国人又は外国法人や海外長期居住者である日本人(外為法上、「非居住者」と称します)が日本国内の不動産を取得する場合には、外為法上は「資本取引」に該当し、日本銀行を経て財務大臣にその旨の事後報告を当該取引を行なった日より20日以内にしなければなりません。不動産の取得には売買のほか相続あるいは遺贈による取得も含まれます。対価が小額の取得でも報告は必要になります。
ただし、次の場合には報告は不要です。


非居住者本人又は当該非居住者の親族若しくは使用人その他の従業員の居住用目的で取得した場合(外為報告省令5条2項⑩イ)
  
②日本国内において非営利目的の事業を行なう非居住者が、当該業務遂行のため取得した場合(外為報告省令5条2項⑩ロ)
  
非居住者が本人の事務所用として取得した場合(外為報告省令5条2項⑩ハ)
  
非居住者が他の非居住者から不動産を取得する場合(外為報告省令5条2項⑩ニ)
 
資本取引に関する報告書の提出先は、日本銀行本店国際局外為法手続担当50番の窓口「支店の場合は営業課または総務課窓口」で、郵送による提出も可能です。郵便切手貼付の返信用封筒を同封の上、報告書およびその控えを郵送すれば、後日、受付印押印の上控えが返送されてきます。また、代理人による提出も可能で、委任状を添付する必要はありません。書式は日本銀行ホームページからダウンロードしてください。http://www.boj.or.jp/type/form/tame/t_redown.htm




Q6.海外の外国人が購入する際にかかる税金にはどのようなものがありますか?
A6.海外の外国人であろうと日本人であろうと何ら差別はありません。
   取得する際に印紙税、不動産取得税、登録免許税がかかります。

 先ず、不動産売買契約書に貼付する印紙税がかかってきます。1千万円を超え5千万円以下ですと1万5千円、5千万円を超え1億円以下ですと4万5千円、1億円を超え5億円以下ですと8万円かかります。ただし、これは平成25年4月1日から平成30年3月31日までに作成されてた契約書について印紙税が軽減されている額です。さらに、平成26年4月1日から平成30年3月31日までの間に作成された不動産譲渡契約書では、1千万円を超え5千万円以下については1万円、5千万円を超え一億円以下では3万円、一億円を超え5億円以下であれば6万円と更に税率を軽減されています。一般的な印紙税は国税庁のホームページをご参照ください。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/inshi/inshi31.htm

 不動産取得税については、その税額は、取得した不動産価格(固定資産税評価額)に税率をかけた額になります。また、住宅や宅地の価格から一定額を控除したり、税額を減額する特例もあります。
詳細は東京都主税局のホームページをご参照ください。
http://www.tax.metro.tokyo.jp/shisan/fudosan.html

 登録免許税は、所有権移転登記、所有権保存登記又は抵当権設定登記をする際にかかる税金(国税)です。通常売買による所有権移転登記は固定資産評価額の1000分の20かかります(土地の売買による所有権移転登記に係わる登録免許税はその税率を軽減する特例(租税特別措置法第72条)が適用され1000分の15となります。ただし、平成27年3月31日までです。)し、抵当権設定登記については債権額の1000分の4の税率がかかってきます。

詳細は国税庁のホームページをご参照ください。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/inshi/7191.htm




Q7.海外の外国人が購入した不動産につき、どのような税金がかかってくるのでしょうか?
A7.不動産を保有していますと、毎年、固定資産税、都市計画税(地方税)がかかってきます。
固定資産税・・・毎年1月1日(賦課期日)現在で固定資産税台帳に所有者として登録されている方(土地建物の登記簿に所有者として登記されてる方又は登記していない場合には実際の所有者)に、課税されます。1月2日以降に売買等により所有者が変わってもその年度分の納税義務者は変わりません。そこで、売買期日を基準として売主と買主との間で日割り計算をして納税額を応分に負担することになります。税額計算は下記のとおりです。
  税額=課税標準(固定資産税の価格等)×1.4%
都市計画税・・・都市計画法の市街化区域内で、1月1日現在、土地建物の所有者として固定資産課税台帳に登録されている方に課税されます。税額計算は下記のとおりです。
  税額=課税標準(固定資産税の価格等)×0.3%(東京都23区の場合)
税率については各地の自治体によって異なりますのでご注意ください。
なお、詳しくは各自治体のホームページをご参照ください。東京都では下記のアドレスにアクセスしてください。
http://www.tax.metro.tokyo.jp/shisan/kotei_tosi.html




Q8.日本には納税管理人制度があると聞ききましたが、どのような制度ですか?

A8.居住用、別荘用、社宅用等賃貸借等により収益を伴わない場合は、地方税である固定資産税、都市計画税の納税をすることになりますが、地方自治体に対して納税管理人の選任をしていると、納税通知はその管理人宛に来ます。その管理人は海外に住む貴方へ通知を出し、その税金を管理人口座に振り込み、その管理人が貴方に代わって納税してくれる仕組みです。
この納税管理人を選任しないで日本の不動産を購入すると、都税事務所又は地方の県税事務所より所有権移転手続をした司法書士あてに、納税管理人を知らないかなどという質問が出されることがよくあります。司法書士の手を煩わせないためにも納税管理人を選任してください。もっとも、貴方が司法書士を納税管理人として選任されても構いません。
更に、購入した不動産を賃貸に出しているときは、その不動産より収益が上がっていることになりますので、不動産所得が一定額以上あれば、毎年確定申告書を提出しなければなりません。このような場合には、納税管理人を定める必要があります。この納税管理人は、確定申告書の提出や税金の納付等、貴方の納税義務を果たすために置かれるものです。
納税管理人を定めたときには、不動産の所在地を所轄する税務署長に「納税管理人届出書」を提出します。この届出書を提出した以後、税務署が発送する書類は、納税管理人あてに送付されますし、確定申告書は納税地を所轄する税務署長に対して提出することになります。納税管理者は法人でも個人でも構いません。




Q9.日本に住んでいる外国人が日本の不動産を購入する際の必要な手続並びに書類等を教えてください。

A9.日本に住んでいる外国人には2種類のタイプがあります。一つは、短期滞在の在留資格で日本に来て一時的に居住している場合で、もう一つは、いわゆる就労資格による在留資格または身分または地位関係の在留資格といわれるもので、長期に滞在することができる在留資格を持って日本に住んでいる外国人の場合です。

(1
)短期滞在の在留資格で日本に居住している外国人の場合

以前(平成24年7月8日以前)は、良くある質問でしたが、短期滞在者で入国し、外国人登録をすれば印鑑証明書が容易に入手できるので簡便な登記手続き方法ではないのかという質問です。しかしながら、平成24年7月9日以降は外国人登録法が廃止され、新しい在留管理制度が導入され、外国人には外国人住民票が創設され、短期滞在者は住民登録のすべがなくなりました。新しい制度では、いわゆる中長期在留者に入国管理局が在留カードを発行し、その在留カードをもって、日本に住居地を定めてから14日以内に、住居地の市区町村において、法務大臣に居住地の届出をしなければならないことになりました。
a.短期滞在とは、本邦(日本のことです)に短期間滞在して行なう観光、保養、スポーツ、親族の訪問、見学、講習又は会合への参加、業務連絡その他これらに類似する活動をすることをいいます。滞在できる期間は15日、30日、90日の三種類があって、人道上の理由または、外国人の当該国が短期滞在を90日以上認めている場合以外は原則として更新できません。
この短期滞在で日本に入国し、在留期限までは日本に住むことができますので、その間に日本の不動産を取得することには何ら制限がないことはA1.で述べたとおりです。

b.この場合、不動産を取得する際には、取得した不動産の所有権を第三者に対抗するためには所有権移転登記をしなければなりませんが、その際に、住所をどうするかということがあります。外国人のもともと住んでいた本国の住所で登記するのが本来でしょうが、以前はそれこそ短期滞在者も外国人登録法に基づいて日本で居所を登録することができましたが、前述のとおり、短期滞在者は住居地を届けるすべがなくなりましたので、海外の住所地または常居所地を住所として登記しなければならならないでしょう。

c.それでは、短期滞在の外国人が現在居住している海外の住所で不動産を購入し、登記手続をする際の住所を証する書面をどのようにして入手するかですが、この答えはA2.をご参照ください。来日の際にA2.に述べている住所証明書を持参していただくか、または、在日当該外国大使館領事部で認証業務を行なっているところで宣誓供述のうえ、この宣誓供述書を住所証明書に代えることができます。

d.次に、短期滞在者が日本の金融機関でローン借り入れができるかとの問題がありますが、日本の金融機関のほとんどは短期滞在者にはローン適格を認めておりません。ただし、A3.で答えたように外資系銀行は融資に応じてくれる場合がありますので、その外資系銀行等にご相談されてはいかがでしょうか?

e.短期滞在者は原則的に海外の外国人と同様ですので、Q2からQ8までをご参照ください。

(2)就労ができる在留資格または身分、地位に基づいての在留資格を持って日本に居住している外国人について
a. 就労ができる在留資格とは、入国管理法の別表1の1、2に記載されている在留資格で外交、公用を除く、いわゆるworking visaと称されている在留資格(例えば、人文知識・国際業務、技術、企業内転勤、投資・経営等)をいいます。また、身分、地位に基く在留資格とは入国管理法の別表2に記載されている在留資格(例えば、日本人の配偶者等、定住者、永住者等)をいいます。

b. 上記a.に記載された在留資格を持つ外国人は、新しい入国管理制度の下では中長期在留者に該当しますので、平成24年7月9日以前より在留している外国人は、新たに外国人住民票を入手することができますので、住所を証する書面は外国人住民票の写しが住所を証する書面となります。また、印鑑証明書も自治体に印鑑を登録すれば入手することが可能です。

c. 上記a.に記載された在留資格を持つ外国人が、日本の金融機関よりローン適格を持つとされるかというと、日本の金融機関はなかなか厳しく、A3.で回答したようにほとんどが永住者等を要件としているのが現状です。外資系金融機関の方がスムーズに融資を受けられるのではないかと思います。

d.日本に居住する外国人は、外為法上では居住者になれますので、外為法上の日本銀行への届出は不要となります。

                                          

                                           http://www.juristor.com/shogai/shogai_fudousan.html